「つながる輪『いのち』」

北海道 石川 沙昌

私が住んでいる旭川市には、動物の行動展示で、全国的にも有名になった、旭山動物園 があります。私は現在、サークル活動の「旭山ZOO 」に所属し、動物園内での「循環型 農業の実践」に取り組んでいます。「循環型農業」とは、動物たちの屎尿を落ち葉や干し 草と混ぜ、堆肥として利用し、そこで収穫した野菜を、今度は動物たちのエサとして使用 する農業形態のことです。収穫した野菜は私たちも食べますが、完全無農薬な、「エコ」 農業です。この活動をはじめたきっかけは、園を利用して学生ができる取り組みがないか、という相談が学校に来たことでした。そこから、この企画がはじまり、大の動物園好 きだった私は、「動物園で何かできる」ということだけで、その呼びかけに飛びつきまし た。
最初は、どんな活動ができるか全く見当もつきませんでしたが、ある日、飼育員の方と話をする機会があり、動物園の役割を伺った中に、活動のヒントがありました。
動物園の役割は、主に4つあるそうです。一つめは、来園者に園内で動物を見ながら楽 しい時間を過ごしてもらう娯楽的役割。二つめは、動物の生態や、それを取り巻く自然環境を考えてもらう教育的役割。三つめは、動物学をはじめ、様々な調査・研究を行う学問的役割。最後に、種の保存を目的とした自然保護活動としての役割です。この中で、私たちができることは、「教育」にあると考えたとき、思いついたのが「食育」でした。食べ物を通して「いのちの尊さ」を伝えていく活動が、園内に農園を設け、動物たちと協力して作物を作る「循環型農業」の実践だったのです。活動のテーマは「つながる輪『いのち』」です。
畑の土入れからはじまる本格的な農園作りに、最初は、不安や戸惑いしかなく、農業指導の先生の元、部員わずか5人の畑仕事が始まりました。活動できる時間は園の終了まで なので、土曜日を中心とした放課後、週1、2回程度ですが、種をまき、水をやり、暑さや雨、時には筋肉痛にも耐え、立派な実を付けろ!と気持ちを込めて野菜を育てていると、普段私たちが口にしている野菜の美味しさは、農業従事者の方々が毎日大切に育てた産物であることを改めて感じ、そこから、食のありがたみを、学ぶことができました。   そして、この農園には、普通の畑にはない特別な一画があります。それは、「虫さんのコ ーナー」です。これは、園長の提案で、種まき以外、一切、手を加えない場所を作るとい うものです。その場所は、虫除けもしませんので、当然、多くの虫がつき、キャベツなどは見る影もない状態でしたが、むしろ、それが狙いなのです。虫たちを駆除せず、迎え入れる場所もあることが、「いのち」をつなげることを目的とした、この農園らしい取り組みだと思います。昨年から始まったこの活動ですが、間もなく、私の高校生としての活動 も、終わりを迎えます。
しかし、私は、「循環型農業」の実践で、日常生活では決して得ることのできない貴重な経験をすることができました。それは、食を通じて「いのちの循環」が行われていることを目的とした活動が、いつのまにか「人のつながり」にも通じていたことです。企画してくれた企業の方、農園に無償で土を提供してくれた業者の方、農業指導の先生、園の関係者はもちろん、時には、遠足で訪れた子どもたちや一般の来園者が、笑顔で作業を手伝ってくれたりもしました。はじめは小さな輪にすぎなかった活動が、まるで作物が少しず つ大きな実を実らせるように、知らないうちに、本当に多くの人たちとつながり、大きな 「人の輪」となっていたんだ、と感じることができました。人間関係の希薄さが指摘されている昨今において、この活動は、「つながり」の大切さを再認識されてくれる大きな可能性を秘めた活動であると考えます。
今、私が楽しみにしているのは、将来、自分の家族とともにこの活動に参加し、「この農園作ったのお母さんだよ」と自慢することです。皆さんも一度、訪れてみませんか? 動物園内にある、なりは小さいけど、たくさんの魅力にあふれた農園へ!